ゲームのクラウドファンディングの話その1 : 成功の条件

クラウドファンディングはアメリカ発祥のシステムなので、有名サイトの多くは米国で誕生しており、中でもkickstarterは最も有名といっていい存在です。
そのkickstarterのビデオゲーム部門で、達成額1位がシェンムー3、2位がブラッドステインド: リチュアル・オブ・ザ・ナイト、3位が百英雄伝と、上位がいずれも日本発のプロジェクトなのは、よく考えるとちょっと不思議ではあります。
いったい背景には何があるのか、個人的に考察してみました。

百英雄伝 ノア
イラスト : みる
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ゲームのクラファンで支持を得る為に必要なもの

まだ完成もしていないゲームにクラファンでお金を払うのは、ほぼゲームファンの人たちだと思います。
そしてある程度のゲームファンなら、ゲームの面白さは文章で内容を説明されただけでは判断できないことを知っているでしょう。
まして、まだ完成していない企画段階のゲームであれば尚更です。
企画書が面白ければ必ず面白いゲームができあがるのであれば、世の中にク〇ゲーなんてないはずですからね…。最初からつまらないゲームを作ろうとする人などいないのですから。

さて、そうなると。
ゲームの企画段階から支持を得てクラファンで成功するには、ゲームの企画の中身よりも以下のようなことが重要、ということになってきそうです。
  • 過去に発売された人気ゲームの後継作である
  • 人気や評価の高い開発者が制作するゲームである

kickstarterビデオゲームジャンル1位のシェンムー3がまさにこの両方の条件が揃ったプロジェクトです。
有名ゲームの3作目で、1作目からディレクターを務めた元セガの鈴木裕氏が代表。
鈴木氏といえばセガ時代、アーケードゲームのハングオン、アウトランなどから始まってバーチャファイターで世界中のゲームファンにその名が知れ渡った開発者です。

特に海外のマニアの間で評価の高いゲームシリーズの3作目。
伝説的なゲーム開発者がプロジェクトの代表。
クラファンに出資するほどの熱烈なゲームファンから支持を得る為の条件が完璧に揃っていたからこそ、歴代1位の金額を集めたのでしょう。

高額の開発費を集めるのに必要なもの

キャラクターのイラストを集めるだけのアプリゲーなどと比べて、家庭用ゲーム機やPC用のアクションゲームやRPGを作ろうとすると、かなり高額な開発費用がかかります。正直、1億2億では足りません。

こちらのページにkickstarterのデータが公表されています。
2020年9月15日時点で、kickstarterで目標額を達成したプロジェクトは約18万8千。そのうち$1M、つまり約1億円を達成したプロジェクトは481しかありません。
その481件のうち、ゲームのプロジェクトが185件で最大ですから、ゲームジャンルは比較的高額なクラファンが成立し易いジャンルではあります。なお、このゲームというジャンルには、ビデオゲームの他、ボードゲームなどのアナログゲームも含まれています。

ただ、他ジャンルと比較して多いといっても、ゲームの成功プロジェクト22,568件のうち、1億円を突破したのは185件に過ぎないわけです。
そしてkickstarterのプロジェクト成功率は約38%、ゲームジャンルでも41.59%ですから、3万件以上のゲームプロジェクトが目標額に到達せずに失敗に終わっています。

では、高額なゲーム開発プロジェクトのクラファンを成功させるポイントはどこにあるのでしょうか?

シェンムー3の全バッカー69,320人のうち、日本からは4,471人、約6.4%。
ブラッドステインドの全バッカー64,867人のうち、日本からは2,303人、約3.6%。
百英雄伝の全バッカー46,307人のうち、日本からは6,987人、約15%。

kickstarterはアメリカのサイトで、海外で使用可能なクレカが必須だったりと、日本人には敷居が高いのは事実です。
しかし、では日本のクラファンサイトを使っていれば支援者が5倍10倍になるかといえば、そこまでは無理でしょう。
数億円規模の高額支援を集めるには、海外のゲームファンからの支持が不可欠といえます。

シェンムーは海外のマニア層から高い評価を受けており、悪魔城ドラキュラシリーズの海外版、キャッスルヴァニアシリーズは日本よりも人気でしたから、これらの後継作が海外ゲームファンからの支持を集めるのは納得できます。
キャッスルヴァニアシリーズは伝統的(?)に難易度の高いアクションゲームですが、海外では難しいゲーム、歯ごたえのあるゲームのほうが人気を集める傾向があります。
百英雄伝の開発者Q&Aにも、「ハードモードはありますか?」「周回すると敵がもっと強くなったりしますか?」といった、より高い難易度を求める英語の質問が山ほど出ていました。
「レベル上げ面倒だし時間ないし、サクサク進むほうがいいなあ」といった声が強い昨今の日本とは正反対です。


幻想水滸伝の海外での人気

では幻想水滸伝はどうでしょう?
分かりやすく販売数でみてみます。
VGChartzのデータでは、初代幻想水滸伝が日本21万、海外39万(うち北米21万)。
2が日本38万、海外29万(うち北米15万)。
参考に、五十嵐氏プロデュースの「キャッスルヴァニア」(PS2)は日本データなし、海外94万(うち北米46万)。
「悪魔城ドラキュラ 闇の呪印」(PS2)が日本5万、海外37万(うち北米18万)。
…これに小島監督作品を加えると、KONAMIって本当に海外人気の高いタイトル多いですよね…。
…話がそれました、すみません。

圧倒的に売れ行きが海外に偏っているキャッスルヴァニアシリーズと比べると、幻想水滸伝は特に海外で人気が高いわけでもなさそうです。

ですが、こちらの百英雄伝発表時の村山氏のツイートを見てみてください。
日本語と英語が併記されたツイートですが、返信の半数以上が英語で、中にはスペイン語も。
日本語の返信もプロフィールを見てみると海外の方のものがいくつもあります。
Twitterは日本のオタク層には根強い支持があるものの、海外でのブームは既に去っていることを考えるとかなりの多さです。
そして、百英雄伝の発表以前のツイートにも英語や海外の方のカタコト日本語の返信が多数ついています。
つまり、元々村山氏個人に多数の海外ファンがいたわけです。
村山氏のツイートはほぼ日本語で、そもそもTwitterを開設したのが2020年3月とごく最近。YouTubeチャンネルなどもないし、特に海外ファンにアピールするようなことは何もしていないはずなので、この方々は純粋に幻想水滸伝の初期シリーズのファンのようです。返信にも「20年以上待ち続けました!」「幻想水滸伝2は私の人生で1番のゲームです!」といった英語メッセージがたくさん並んでいますから。

さて、では雑誌のインタビューやゲームショーのステージなど、開発者の言動を見聞きする機会がそれなりにある国内ファンはいいとして、日本のゲーム開発者の情報が少ない海外になぜ多数のファンがいるのでしょう?

企業ブランド重視の日本、クリエイター個人重視の海外

今でこそ日本でもゲームの開発会社と販売会社の違いが知られるようになりましたが、PS初期の頃のゲーム系マスコミでは販売メーカー名が書かれているだけなのが通例だったと思います。
ドラクエがエニックス→スクエニのゲームだとは知っていても、ドラクエを作っているのがどこの会社かまで知る人は、ファンの中でもかなりマニアックな人たちだけでした。
PSが普及したころから、ゲームの電源を入れた後に販売メーカー名の次に開発メーカーのロゴが表示されるソフトが増えてきたと思います。

欧米ゲーム業界では初期から開発と販売が併記されているのが当たり前で、開発者個人の名前が出たりインタビューに答えたりするのも昔からありました。

一方、日本のゲーム雑誌にも開発者インタビューはあったものの、そこで答えているのは実際の開発者ではなく、勤怠管理とスケジュールと予算の管理をしているくらいの管理職か、広報部門の社員なのが実情でした。

なぜ日本だけ特殊なのか、説明すると長くなるのですが簡単にまとめると、ファミコンブームで一気に日本のゲーム市場が拡大した際、各メーカーが開発者の引き抜きを防ぐ為に開発者個人の名前は一切出さないのが通例になり、それが長い間続いたからです。
名前を出さないのですから当然インタビューなどにも出しません。

かくして、欧米ゲームファンが初期からゲームを開発するクリエイター個人に注目するのが当たり前だったのに対し、日本だけはゲームを作っているのはその「会社」だと考える土壌が出来上がったのです。
もともと欧米社会では転職や独立が当たり前のこととして頻繁に行われる点も、企業名より個人の能力が注目される理由の1つです。
好きなゲームを作っているのがどこの会社か、で止まらず、誰が作ったのかまで追求してファンになるのは、海外のゲームマニアにとっては昔から当たり前なのです。

百英雄伝のkickstarterのコメント欄などでも、過去の幻想水滸伝シリーズに関わったスタッフはもちろん、関わったことのない人まで「〇〇さんは参加しないんですか?」「△△さんも加わって欲しい!」など日本のクリエイターの個人名を出して要望している英語コメントを多数見つけることができます。
ネットが普及して以降のゲームならまた違いますが、幻想水滸伝I、IIはまだゲーム雑誌などの紙媒体がメインだった時代のソフトですから、当時からの海外ファンの情報収集力には驚かされます。

以上のような話は、ネットが普及して動画サイトがゲームの販促に活用され、日本でもゲームの開発者が顔を出してしゃべるのが当たり前になって以降にゲームファンになった若い方にとっては「は??」という感想でしょう。
ただ、このあたりの影響は今でも確実に残っています。
…この話は長くなる気がするのでまた次回に。

結論 : 高額なゲーム開発費をクラファンで集める為の条件

長くなってしまいましたが、以上のようなことから、家庭用ゲーム機やPC用のゲームの高額クラファンを成功させるのに必要なのは、
  • 過去に発売された人気ゲームの後継作である
  • 国内国外でファンの多い開発者が制作するゲームである
以上の2点が重要と考えられるのです。

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